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船頭と或る日の漁(小説風)
船頭は若干32歳の青年である。
しかし、既に5年間その職をなんとか“こなして”きている。20歳で定置網の船に乗り始め、2~3年でその頭角を現した。明るさ、タフさ、器用さ、勘のよさ、熱意、速さ、用心深さは天性のものである。“しごかれた”が持ち前の明るさとタフさで堪えた。覚えた。何もないところで異文化の外人に言われるままに習った。器用さ、勘のよさ、熱意が彼の武器だった。
「こいつなら船頭ができる」と思わせたのは、速さと用心深さを持ち合わせていたからである。「臆病」ということでは決してなく、性格はむしろその逆。だからなおさら、慎重さが必要であった。
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「今日できることは、今日中にやる」という異人の作業方針が、彼には一番印象深かったものらしい。
漁師は、自然の中で生きている。自然とうまく付き合っていくには、まず、自然には逆らわないことである。しかし、昨今。海の不変性に比べ、丘の多様性が多くの若者の気を惹きつける。月曜日から始まる一週間は金曜日で終わり、その夜から楽しい週末が始まる。もちろん、週末は仕事は休みである。キリスト教国では何千年も前から続く生活習慣である上、現政府もそれを応援し奨励しているのである。何の疑いを持つ理由もなく、ましてやそれを変えていくことなど考える間などある筈がない。
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しかし、そんなキリスト教の都合でも、自然は取り合ってくれない。実際、彼も今まで多くの「自然の気まぐれ」を眼にしてきた。月曜日から始まった時化が金曜日まで続く。不思議と週末は風もおさまり、よい天気となる。しかし、翌週、また、月曜日から時化が始まる。こうなると船は10日以上も漁に出ないことになる。これを「仕方ない」と片付けるか、「何とかしなくては」と対策を練るかで違いが出る。

時化が数日続いていた。予報では日曜日には一旦風は弱まりそうである。出港のチャンスだと直ぐ分かる。しかし、続く月曜日も同様に比較的穏やかな天気となりそうである。火曜日には前線が近づき、再び時化となると考えた方がよさそうであった。彼は日曜日は出港せず、「通常どおり」月曜日の出港を船方に指示した。
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そして月曜日の朝。まだ暗いうちに起きた彼は唖然とする。風である。吹き始めで勢いがある。天気図には載らない小さな低気圧が沖に発生したのである。他船は既に出漁を断念している。港に人の気配はない。カフェは早朝にもかかわらず漁師で一杯である。まさにミックスド・フィーリングである。「安全第一、危険回避」が大鉄則である。その点から言えば、今日の出港は見合わせるのが妥当である。しかし、連日の時化で市場は飢えている。市場は彼の魚を待っていたのである。もちろん会社に対する漁の責任者としての立場もあるが、今回は市場からの期待に応える義務感が上回っていた。

まだ薄暗い中、1隻の船が港を出て行った。
無理だ、無謀だと思われても、この時彼には自ら時化を「体感」するしか残された解決策はなかった。「行けるかどうかは、行ってみれば分かる」。 数分後、その答えは早々に出た。出港した船からの連絡。
「波は高いが、それ以上に風が強く、船が走れない」

沖に出れない日は丘での作業を行う。網の修繕、ロープの準備等々。しかし、船方の顔に憂いはない。むしろ難を逃れた安堵感が広がっている。沖を羨ましく見つめる彼の姿もそこにあった。何がいけなかったのか、どこで間違えてしまったのかを考えているようにも見えた...。
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午後、彼が走ってやってきた。
「風が止まった。もう一回行ってくる。」
再出港。しかし、またも彼の船1隻のみの出港である。他船の漁師は「今日は時化」と決め込み、朝からの酒ですでに出来上がっていた。

沖に出た。波はまだ大きい。しかし、風はない。これなら行ける。

数時間後、魚を満載した彼の船が港に戻ってきた時は、すでに日はどっぷり暮れていた。

彼の予想どおり、火曜日からは今年一番の大時化が始まった。

THE END.











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by mobulamobular | 2007-12-24 21:14 | 定置網 | Comments(1)
☆なしホシザメ
2008年11月9日にこの記事の内容は訂正いたしました。
詳細は訂正記事で確認ください。

「ホシザメ(属)の中のホシザメ」が☆なしというのも、なんか変な話です。
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学名 Mustelus mustelus、 英名 Smoothhound、 ポルトガル名 Cação liso、和名は知りません。
この個体も定置網休漁中のため、地元底刺し網船が獲ったものをちょっと拝借しました。もっとも、定置にはなかなか入りませんが。
地元ではポピュラーな魚で、特にスープの具材として有名です。"Sopa de Cação"といいます。
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"liso=smooth"ですが、"Cação"は「犬」ではなく、「全裸婦」のことを示します。しかし、今では"Cação=サメの名前"が
人々の間に浸透し、「元の意味」は忘れ去られようとしているみたいです。

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by mobulamobular | 2007-12-22 01:44 | サメ・エイ | Comments(0)
燃料代
ご多分にもれず、ポルトガルでもガソリン代高騰、船の燃料代はうなぎ上りです。
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これは街のガソリンスタンドでのものですので、船のものとは異なります。単位はユーロ(1ユーロ=162円くらい)です。
日本はガソリンが140~150円くらい、軽油は120~130円くらいだと思いますが、ヨーロッパは全般的にさらにもっと
上を行っています。日本にこの値段を持って行ったら、即、衆議院解散となるのではないでしょうか。
こちらはディーゼル車流行ですので、注目は一番下の軽油代ですが、それでも円に換算すると200円に迫ります。
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船の燃料は税の優遇制度が適応され、別物です。それでも目下105円くらいで軽油を入れています。
昔、知り合いが「漁師は世界中どこでも貧しい暮らしをしている」と言っていましたが、ここも多分そんな感じだと思います。
大きな船で組織立ってやっているところは、前述の税の優遇制度等があり、まだマシですが、ここの漁師の多くは
いわゆる「小釣り漁師」で悠々自適の様にも見えますが、実は重い規制の下、細々とやっています。
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漁師に関係する「規制」はいろいろありますが、特に問題となるのは船に関するものです。
当然金銭面の問題もありますが、ここでは船内機(船の中にエンジンが設置されている)の船の許可がなかなか下りません。
よって皆、船外機の使用となります。そして、この船外機のほとんどがガソリン使用で、ガソリンには軽油のような
税の優遇制度が受けれないのです。ですからトップの写真にある価格で彼らは毎日自分の船に燃料を補給しています。

正直、「よくやっているな」と思います。
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by mobulamobular | 2007-12-20 05:53 | 定置網 | Comments(0)
キアンコウ
こういう魚はやはり、一度は水の中で見てみたいものですが、この海域では100m以深に生息しているため、
普通の人にはちょっと肉眼で見ることはできないと思います。
定置網には今までに1度の入網記録がありますが、この個体は地元漁師の底延縄にかかったものです。
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学名 Lophius budegassa、 英名 Black bellied angler、 ポルトガル名 Tamboril preto、 和名は不明です。
和名については英名を直訳して「クロハラアンコウ」とか「ハラグロアンコウ」とかの記述は目にしましたが、
何れもはっきりしないので、ここでは「不明」とします。「キアンコウ属」の1種です。
日本のキアンコウ(学名 Lophius litulon)は、「ホンアンコウ」とも呼ばれています。
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"Anglerfish"の名前はこの背鰭棘が変形したものに由来します。太公望は「二本差し」で魚を誘い、ガブッと捕獲します。
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この「口ひげ」のようなものは水中ではヒラヒラと海草のように揺らめきます。参考までにFishBaseにリンクします。
大きな個体ですと1mほどになります。市場では腹面を上にして「肝」を見せて、セリにかけられます。
日本では「あんこう鍋」がおいしい季節を迎えていますが、こちらでは"Arroz de Tamboril"(アンコウ・オジヤ)という
お気に入りのポルトガル料理があります。もちろん、肝入りです。
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by mobulamobular | 2007-12-17 18:24 | | Comments(0)
イボガンギエイ
ポルトガルでよく漁獲されるガンギエイの2種目です。
定置網にも幾度か入ったことはありますが、この個体は地元漁師が底刺し網で獲ったものです。
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学名 Raja(Raja) clavata、 英名 Thornback ray、 ポルトガル名 Raia lenga、 和名 イボガンギエイ です。
その名の通り、背面のみならず時には腹面にも鉤状の突起物があります。しかし、この突起物は個体によって
その数、大きさ、場所は様々で、ないものもいます。本個体では背面右側に小さな突起物ひとつを確認できましたが
それ以外はありませんでした。
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この突起物のことを英名では"buckler thorn"といいますが、"buckler"とは「ノンアルコールビール」のことではなく、
大昔、ギリシャ人やらローマ人が戦う時、左手に持った丸型の楯のことで、上の図から突起物の先の曲がった部分が
楯の取っ手となることが容易に想像され、まさしくピッタリの名前だと思いました。
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ポルトガル名"Raia"はガンギエイの総称ですが、"lenga"が意味不明です。
辞書にも出ていません。誰も知りません。インターネット検索では「出所不明」となっていました。
「ジャスト・ネーム」ということで理解することにしましたが、"lenga"が二つつながって"lengalenga"となると、
「とりとめのない長話」といった感じの意味になります。こっちの人は話し好きで、仕事そっちのけでベラベラ馬鹿っ話
(特にフットボール)に没頭する時がありますが、そんな時に「lengalengaはやめろ!!」といった風に使います。
和やかに会話を中止させることができます。
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by mobulamobular | 2007-12-15 00:15 | サメ・エイ | Comments(0)
漁期終了
今年もいろいろありましたが、めでたく漁期終了です。網抜きです。
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心配されていたムラサキイガイの大量付着もなく、なんとか一年を乗り切りました。ここでは日本の定置網で当たり前になっている「防藻剤」は使いません。4月に入れた網が今までもつのですから、基本的に網はあまり汚れません。
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それでも気になる付着物はあります。フジツボ(Balanus spp.)です。
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日本の定置網を知っている人には、通常、フジツボは表層近くに多く付着するものという概念がありますが、ここでは主に底層付近に多く付着します。側面には少なく、敷にはベッタリといった感じです。
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ここは地中海性気候。大地は乾いています。雨は多くなく、高い山もなく、大きな河も近辺にはありません。テラロッサの土壌はあまり肥沃ではなく、人口も少ないことから生活排水や養分の海への流れ出しも少ないと思われます。
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ですから、表層には付着生物たちにとっての餌のなるプランクトン類が少なく、ここの海の栄養は沿岸湧昇によって深海からもたらされるものなので、底層に付着生物の活路がある、と勝手に考えています。

何れにせよ、一日も早く、魚網会社さんには付着生物のつかない、汚れない網を開発していただきたいものです。







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by mobulamobular | 2007-12-13 00:23 | 定置網 | Comments(0)
サメ
矢野和成博士がこの本の著者です。

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矢野氏はマルバラユメザメの標準和名の命名者です。マルバラユメザメの英名は"Portuguese dogfish"と言います。また、イチハラビロードザメ(学名 Scymnodon ichiharai)やオロシザメ(学名 Oxynotus japonicus)の標準和名も命名しています。ようするに「サメキチガイ」です。サメのこととなると世界中いたるところに出現していました。今時めずらしい4人のお子さんのパパです。そんなサメ好きを移そうとしたのか、すでに伝染したのか知りませんが、本書表紙のサメの絵はそのお子さんらが描いたものです。

博士がサメ以外にもうふたつ熱中してやっていたことがありましたが、そのひとつはここでは割愛させていただきます。残るひとつはサーフィンです。子供のころに始めたサーフィンはプロになるまで熱中していました。トーナメントプロを引退後も、研究室と海とを行ったり来たりしていました。

よく遊んでもらいました。

そんな博士も2006年4月、大好きな海を一望できるところに旅立っていってしまいました。

享年49歳。
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by mobulamobular | 2007-12-10 05:17 | 書籍 | Comments(1)
タコとクリスマス
タコの輸入大国・日本にとっては耳よりのお話です。長いことここに居ますが、今年ほどタコの水揚げの多い年はありません。海向うのモロッコでの漁業規制の成果(?)でしょうか、「タコ豊年」です。
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学名 Octopus vulgaris、 英名 Common octopus、 ポルトガル名 Polvo-vulgar、 和名 マダコ です。

日本におけるタコの消費量のうち、実に7割ほどが西アフリカ諸国をはじめとする海外からの輸入に頼っていると聞き及んでいます。ここのタコも「系統」からいえばアフリカのそれと同じと思われますが、タコは何を食べているかで味が随分と変わってくるらしく、ポルトガルのタコの市場での評価のほどは分かりませんが、個人的にはうまいと思っています。

連日、誰が買って誰に売って、またその次に誰が買うかは知りませんが、午後遅くまでセリが続いています。主にタコツボやカゴ網によって漁獲していますが、地元漁師にとってはこの時期うれしい誤算というか、予想外の「クリスマス・プレゼント」になっており、いつもの年では水温の低下に伴い漁が減り、下向き加減の漁師が多い時期ですが、今年はいつもと違っているのは誰の眼にも明らかです。

さて、クリスマスと言えばLITÃO(リタォゥン)の季節です。
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干してます。あっちこっちで最後の追い込みです。地元オリャオ(のみ)での代表的なクリスマス料理の食材です。小型のサメです。煮込み料理となります。この風景は地元ではこの時期当たり前のものですが、今年は一風変わったものもありました。
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リタォゥンと一緒にタコを干しているところがあります。ひょっとしたら、そのうち干しタコが地元のクリスマスの名物料理とかになるかもしれません。















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by mobulamobular | 2007-12-06 21:38 | | Comments(2)
マンボウ
唯一、と言っていいと思います。定置網に大量に入って売れない魚です。
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学名 Mola mola、 英名 Sunfish、 ポルトガル名 Peixe lua (Rolin)、 和名 マンボウ です。
英名は「太陽魚」ですが、ポルトガルでは「月魚」です。
水族館では人気者のマンボウも、定置網漁師にとっては時に「厄介者」となります。
何故だか定かではありませんが、ポルトガルのDOCAPESCA(国営市場)では販売が禁止されています。
幾度となくその理由を尋ねてみましたが何れも要領を得ず、つまりは寄生虫等の問題もあるのでしょうが、
ようするに問題は誰もが思うそのかわいらしい容姿にあるようです。結局は「可哀そうだ」ということですね。
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水中で泳ぐその姿はたしかに愛らしく、キョロキョロ動く眼とプカプカ浮かぶ様子を見てしまうと、皆、何もできなくなってしまう。
活魚としては時に水族館に送ったりしますが、餌付けも比較的容易で、給餌サインとしてターゲットを決めてあげると、
口をパクパク開けて近寄って来ます。そんな時はまったくの「ペット感覚」になってしまうのも事実です。

そんなマンボウですが、アカデミカルな面ではまだまだ謎の多い動物です。
どこで産卵を行い、何を食べているのか、ライフサイクルはどのようになっているのか、等々。
今年は2回ほどポルトの大学の研究チームがイギリスのTHE MARINE BIOLOGICAL ASSOCIATION OF THE UNITED KINGDOM
の協力を得て、マンボウのポップアップタグによる追跡調査を行いました。これは東大西洋では初の試みです。
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定置網に入ったマンボウを生け捕りにします。
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素手は禁物です。薄手の手袋を使用します。
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ポップアップタグを装着します。
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その後、海へ戻しました。
この「ポップアップタグ」というのは事前に設定した期間が過ぎると自動的に本体が動物から切り離され、水面に浮上し、
人工衛星(GPS)を経由してデータが送られてくる、という優れものです。
数ヵ月後、大学からデータが受信されたという連絡がありました。現在、データ解析中とのことでしたが、
なんと、あのマンボウはアルガルベで放流された後、北上し、イギリス近くまで行ってしまったようです。
こうしてまたひとつ動物の生態が少しずつ明らかになっていくのでしょう。
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by mobulamobular | 2007-12-03 06:08 | マンボウ | Comments(0)