Doutor
「ドトール」。

彼のことをそう呼んでいます。彼との最初の出逢いは1991年でした。当時、まだ50歳前でしたが、すでにポルトガルの国立海洋研究所総裁の地位にあり、名実ともにこの国の海洋・水産部門の第1人者でした。

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しばらくは直接話をすることすらはばかれる存在でしたが、ある日、新しい定置網設置に必要な資料の提供を求めた際、「午後に来い」と言われ、「午後何時ごろか」とたずねると、「午後遅くだ」とのこと。それを、ふつうに考え、午後5時ごろ、海洋研究所を訪れ、彼の秘書にアポがあることを告げ、廊下で待ったいました。周囲には、同じように彼を訪問してきたポルトガル人が数名、順番を待っていましたが、ちょっと気になったことは、どの方たちも彼にサインをねだるネクタイ姿の役人らしき人たちではなく、どちらかというと漁師風情の人たちだったことを憶えています。

日が暮れ、研究所内部の灯りがつき、引き続き順番待ちをしていたのですが、呼ばれるのは漁師風のおっさんばかり。「忘れられたかな」と再び秘書のところに行くと、「もう少し待っていろ」とのこと。その間も、総裁室では人が出たり入ったりを繰り返していました。一方、研究所の職員と思しき人たちが、一日の仕事を終え次々と研究所を後にします。終いには、総裁の秘書までが、「また、明日」。でも、彼の訪問者はまだ何人も残っていました。

職員らがおおよそいなくなると、研究所内の灯りは消され、ガードマンの管理室と総裁室の灯りだけになりましたので、しかたなく、非常灯の下で彼からのお呼びを待ちました。訪問者の数が残り一人になった時、時計の針はすでに午後10時を回っており、「これはやられたかな」と一瞬思いましたが、ここまできたら待つしかないということで、ボーっとしていると、ついに、最後の訪問者が総裁室から出てきた直後、彼が手招きをしてくれました。"11PM"でした。

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「ごめん。しかし、これが私の1日だ」、と言って彼は約束通り、定置網設置に関する資料を手渡ししてくれたのですが、同時に見せてくれた資料が、「1898年度マグロ定置の年次報告書」だったのです。その彼が、日本人によるアルガルベ定置網の復興計画に異議を唱える地元漁師や関係団体や一部の役人らをすべて説き伏せてくれたおかげで、今日に至っています。

人は彼のことを「政治家」だと言います。しかし、こちらにとってはそんなことはどちらでもよいことなのですが、この国では大切なポイントなのです。彼には5人の子供がいます。一番末の娘さんは1991年生まれです。彼はその後数年にわたり、国立海洋研究所の総裁の地位に留まっていましたが、ある日、政府より水産庁長官への就任の話がありました。しかし、彼はその要請を断りました。理由は、彼の一番末の娘さんが、ダウン症であったためです。彼はその娘さんのことを"My favorite sweet"と呼びます。より多くの時間を大切な娘さんと一緒に過ごしたいという思いが、彼を第一線から退かせました。

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その後、彼はリスボン大学で教鞭をとるようになり、加えて、アルガルベ定置網の相談役を兼ねていただいています。そんな彼を、今回、10日間ものモロッコの旅に同行させてしまいました。毎日、少なくとも2回は娘さんから電話がかかってきていました。「すぐ帰るから・・・」。

モロッコ・アガディールで開かれたICCATの年次総会は、今後の大西洋および地中海におけるクロマグロ漁の転機となると誰もが考えていました。加えて、ポルトガルにとっても大切な会議になるはずだと、彼は考えていたと思います。

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話変わりますが、日本では1972年の男女雇用機会均等法以来、より多くの女性が社会進出し始めたとはいえ、依然として男性優位な状況であること明らかだと思います。しかし、ポルトガルでは状況が一変します。「もうちょっと、男性に社会進出してもらいたい」と思うほどに、女性にパワーがあります。上の写真、ドトールの隣にいる女性は、ポルトガル水産庁・水産局の資源管理部の部長さん(マグロ担当)です。加えてもう1名、今回の会議にポルトガル政府代表として出席した水産庁・水産局の局長さんも女性の方です。女性に文句を言う考えなど毛頭ありませんが、「もうちょっと、男、どうにかならないか」とかは思います。

水産局長さんはドトールの古い教え子です。小さな国が、今後どうやって強国からの荒波にもまれながら生きていくか、まだまだ、ドトールの「真の引退」は許されない様子です。

















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by mobulamobular | 2012-11-23 07:22 | 定置網 | Comments(0)
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