ナイルパーチ
この魚には、ちょっと想い出があります。もう25年ほど前のことになります。
でも、今はもうこんなかたちでしかお目にかかれません。
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学名 Lates niloticus、 英名 Nile perch、 ポルトガル名 Perca nilotica、 和名 ナイルパーチ です。
これが、上のような料理となると、"Filet de Perca"と呼ばれ、よく昼ご飯の日替わりメニューに加わっています。数年前から、市場の場外で鮮魚が、スーパーなどでは冷凍魚を見るようになりました。

場所はケニアのビクトリア湖(Lake Victoria)です。ビクトリア湖は世界で2番目に大きく、またアフリカでは最大の淡水湖で、ケニア領、タンザニア領、ウガンダ領に分かれています。ナイルパーチは当時、「外来魚」として目の敵にされ、地元水産局ではノルウェーだかロシアからの援助で得たトロール船で「ナイルパーチ撲滅運動」などを展開していました。成長すると全長2m、体重が150kgを超える大型の肉食魚で、ビクトリア湖の在来種であるシクリッド科(Cichlidae)のハプロクロミス(Haplochromis)やティラピア(Tilapia)の類の魚を片っぱしから捕食してしまい、それらの魚の数が激減してしまったという状況にありました。地元民であるルオ族は、この巨大エイリアンを嫌い、漁獲されたナイルパーチをほとんど口にしなかったと記憶しています。

その後、ナイルパーチは世界最高の「未利用資源」として欧米や日本からの注目を集め、その方面への「輸出魚」となり、晴れて「市民権」を得るにまで至ったのですが、最近はまた少し状況に変化が出てきた様子です。
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もともとナイルパーチは名前の由来であもあるナイル川に生息しており、古来エジプトの壁画にも描かれているように「神聖な魚」という確固たる地位を築いていたのですが、1950年代に「北ヨーロッパ人」の手によってウガンダのカンパラ辺りからビクトリア湖に放流された後、その地位を失墜し「最低最悪の外来プレデーター」というレッテルを貼られるようにまでになってしまいました。また、前述のように「未利用資源」として大いに活用されるようになってからも、さらに"Darwin's Nightmare"といったプロパガンダ映画では主役に抜擢され、世界中の反感を買うように仕向けられてしまいました。
「オマエラ、イイカゲンニシロヨ」と代弁してあげたいぐらい、ナイルパーチはボロボロの状態です。一時ですが、関係を持った魚がこのような状況に陥っているのを見過ごす訳にはいきません。何とか名誉挽回をはかってあげたいものです。

上の3つの記事からも分かるように、最近、ビクトリア湖のナイルパーチ漁は"Overfishing"の状態だそうです。漁獲量は2000年ごろに比べ半分にも満たないレベルにまで落ち込んでいる様子です。1980年代始めからタイムスリップしてきた者にとっては、おおよそ25年後に「ナイルパーチ撲滅運動」は本懐を遂げつつあるように思えるのですが、まさか逆に資源の枯渇を心配するような事態になってしまうとは「お釈迦さまもビックリ」なのではないでしょうか。加えてこの間、再び「北ヨーロッパ人」が南アメリカ原産の水草である「ホテイアオイ」をビクトリア湖に移植し、湖を水草だらけにしてしまいました。これによりビクトリア湖は酸欠状態となり、魚の繁殖に悪影響を与えるばかりでなく、船の航行を妨げ、漁業もできず、飲み水にまで深刻な被害をもたらしたとも聞いています。
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次はダムです。ビクトリア湖唯一の水の流れ出しで、白ナイルの源流でもあるところ(Jinja, Uganda)で、世銀の援助で大規模なダムを建設し、その結果、ビクトリア湖の水位を異常なまで下げてしまうという失態もやらかしています。人間はどこまで自然を痛めつけたら気がすむのかとか考えてしまいますが、ビクトリア湖は前述のとおり、「世界で2番目に大きな淡水湖」ですが、容積(水量)で言えば、世界で7番目となります。ようするにとても「浅い」湖なのです。最深部でも80mほど、ケニア領内では30mほどの深さだったと思います。ですから、ビクトリア湖はグレート・リフト・バレー(大地溝帯)の脇にできた「湖」というより「巨大な水溜り」なのです。ものの記述にはビクトリア湖の今の形がほぼ出来上がったのは、おおよそ40万年前で、それから今までに氷河期などの気候変動で少なくとも3回は干上がった時期があるそうです。これほど若い「巨大な水溜り」ですので、それほど力強い生命力を宿しているとも思えず、他のものの記述にあるように「ナイルパーチによって400種ほどいたビクトリア湖の在来種はほぼ絶滅した」とかいうのは、ちょっと信じられません。信じられないのは「ビクトリア湖に数100種もの魚が生息していた」ということです。また何か「ウラ」があるのではと疑いたくなります。「DNA鑑定によって」とか言ってますが、それってあまり信用できません。

これって、同じアフリカ大陸のタンガニーカ湖(Lake Tanganyika)とかマラウィ湖(Lake Malawi)とかと勘違いしているのではないかと思います。「勘違い」では済まされない話なのですが、これら2湖はグレート・リフト・バレー内に2千万前とか数万年前に形成された古代湖で、最深部はタンガニーカ湖が1500mほど、マラウィ湖も700mほどもあります。ですから、ビクトリア湖とは本質的な部分で全く異なります。昔、海と何らかの繋がりがあったところが、地殻変動によって陸封化され、魚もそのまま淡水化したかのように種類も豊富で、海水魚にそっくりなものが数多く存在します。とても興味深い湖です。

後になって、「ビクトリア湖の魚が"乱獲"によって数が激減したため、植民地時代に、北ヨーロッパ人がナイルパーチを湖の魚資源回復のための苦肉の策として放流した」とか、勝手に美化した言い訳を造ってることに対し、どうかと思います。どうして当時のブラック・アフリカンに湖の魚を激減させるほどの乱獲漁業ができたというのでしょうか。

とにかく「賽は投げられた」(the die is cast) のですから、「初志貫徹」でナイルパーチがいなくなるまで獲り尽くすか、地元経済最優先でこれからも末長くナイルパーチと共存していく道を模索していくか、二つに一つで、ビクトリア湖周辺部族および3国政府、また必要であれば欧米日も協力して知恵を絞っていただきたいものです。
ナイルパーチのために。





デザートは「焼きリンゴ、シナモン・スティック付き」でした。
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Maçã assada com canela.
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by mobulamobular | 2010-03-31 05:24 | | Comments(11)
Commented by chie at 2010-03-31 19:49 x
この辺の人が、この世で一番美味しいと信じている魚 が pesce persico, 辞書には、スズキ科の陸封魚 とあります。河魚にしては美形ですが、味が無い!魚です。5年程前 レストランで出すpersicoのリゾットは、アフリカから輸入した淡水魚を使っているそうだ という噂が流れ始め、魚屋さんにもこの巨大なフィレが並ぶようになりました。アフリカのペルスィコと呼ばれていて、価格は尾頭付きホンモノの半値以下です。調べたら、ビクトリア湖から冷凍で来るようで、これですよね! そんな過酷な運命を背負った魚だとは夢にも知りませんでした。ホンモノの方も、様々な規制にも関わらず激減しているようですが、COMO湖にはプロの漁師がまだ2-3人居るそうです。
Commented by ウィークエンド・ストラマー at 2010-03-31 20:02 x
おー、ナイル・パーチ、お懐かしゅう。しかしあの大魚にそういう過去があったとは、存じませんでした。
ホテイアオイの話もひどいですね。
Commented by mobulamobular at 2010-04-01 05:43
chieさんへ。その魚、学名は"Perca fluviatilis"のようです。ヨーロッパ原産のようですが、スペイン、イタリア、ギリシャには棲息しないとなっています。コモ湖にはいるのでしょうか。ひょっとしたら、それも移植されたものかも。北ヨーロッパ人得意のオーストラリア、ニュージーランド、南アには移植されたそうですが、やはりこれも今ではPest species扱いだそうで、日本では特定外来生物に指定されており、原則、輸入・販売禁止です。これもナイルパーチ同様、数奇な運命をたどった魚かもしれません。
Commented by mobulamobular at 2010-04-01 05:48
ウィークエンド・ストラマーさんへ。燻製が美味かったのを思い出します。また、行ってみたい気持ちになってます。そちらでは、ナイルパーチ、食べれませんか。
Commented by chie at 2010-04-01 19:55 x
陸封魚というのは、閉じ込められてしまった魚だと勘違いしていましたが、勝手に海から引っ越して来るケースの方が多いのですか???素人にはとても不思議に思えます。コモ湖では、persicoとニシン科の agone (Alosa agone) が有名です。移植されたという記録は無い とのことです。   mobulamobularさんと、ウィークエンド・ストラマーさん、25前にビクトリア湖で、100Kgのナイルパーチと格闘しちゃったのですか???
Commented by mobulamobular at 2010-04-02 07:33
chieさんへ。陸封魚および降海魚として有名なのが、サケ・マスの類です。例えば、陸封魚のヤマメが海へ下るとサクラマスとなります。環境に適用することで種の存続をはかるということだと思いますが、不思議ですね。やはりどのDatabaseでもpersicoはイタリアでは"introduced"となっています。随分と昔の話なのではないでしょうか。25年前のビクトリア湖は今に比べれば「平和」だったのかもしれません。格闘したのはナイルパーチだけではありません。
Commented by kimiyasu-k at 2010-04-02 19:40
ありがとうございます。少しずつ魚のコトを覚えます。persicoがintroducedだというのは、特ダネです。近所の釣りキチさん達に言ったら怒るかも。  この辺もまだ寒いのに北ヨーロッパ人が甲羅干しに来る季節になりました。 Feliz Pàscoa!
Commented by ウィークエンド・ストラマー at 2010-04-02 20:07 x
燻製、うまかったですね。「キムチの素」を塗って作ったら絶品でしたよね。

>格闘したのはナイルパーチだけではありません。

mobulamobular氏のボートに乗って遊んでいて、岸で憩うカバに「バカー!」と叫んだらなぜか通じてしまい、怒ったカバに追いかけられたことがありました。
Commented by mobulamobular at 2010-04-03 06:04
kimiyasu-kさんへ。恐縮です。外来生物というのは、魚以外にも気がつくと周りにもたくさんいるものです。それがもとの生態系にいろいろな影響を与えている、今ではよくある話だと思います。アルガルベは人間も含め、外来生物だらけです。よい週末を。
Commented by mobulamobular at 2010-04-03 06:25
ウィークエンド・ストラマーさんへ。ありましたね、そんなこと。目の前を"アスカリ"に追っかけられ走って逃げるカバに横切られたこともありました。ゾウのウンコを避けたとたん、轍にはまってバイクでもんどり打ったこととか。キリがないですね、この話。今日の夕飯の一品、"スクマ・ウイキ"でした。
Commented by ウィークエンド・ストラマー at 2010-04-04 01:58 x
>今日の夕飯の一品、"スクマ・ウイキ"でした。

うっそー! スクマがあるんですかー? 
食いてー!うらやましー!
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